「是非とも三宅島の魅力を空からの映像で引き出していただきたいと思います。」
島でドローンを飛ばしたいのでどんな制限があるのかを教えて欲しいとたずねたメールに、三宅島観光協会からこんな嬉しい返事が戻ってきた。
「年間を通して風の強い三宅島は、決して空撮に向いている島ではありませんが、ひとたび天候が落ち着けば素晴らしい景色を望むことができます。」
と添えて。

三宅島からのメールには「台風を除けば9月は比較的気候が安定していますので、好天に恵まれることを願っております」とも書かれていましたが、今年の8月とは打って変わって9月の後半は台風は襲来せず。 こうなると「三宅島へ行かない理由が見当たらない」というわけで、竹芝桟橋からフェリーに乗り込んだのは9月のとある月曜日の夜でした。
猛々しい火山と、そこに寄り添い暮らす人々
結論から言うと、初めて訪れた三宅島では、ネットで下調べした生半可な知識や先入観を豪快に吹き飛ばすほどの衝撃を受けました。 「都内からたったの175kmしか離れていないところに、こんな光景と暮らしがあったとは」と。
約50年に一度という頻度で、島のあちこちで大噴火が起きる。 直近では20年間隔で噴火し、2000年の噴火では全島民が5年間も島を離れて避難した。 ガスマスクの携行義務が解除されたのは、つい4年前のこと。 校舎のほとんどが溶岩に押し潰された小中学校の跡地が遊歩道になっている。 火山ガスで立ち枯れた樹木が、白い墓標のように立ち尽くしている。 島民に水を提供していた池が一夜にして蒸発した。 赤く変色した火山岩に覆われた火口の跡が道路のすぐ横にある。
そんな風景が直径わずか8kmしかない島の至る所に生々しく横たわっている。 そこに約2,600人の人々が暮らしている。 気象庁によって火山活動度ランクAの指定されている活火山とともに。
三宅島のWikipediaを読むと、ここは島というより「活火山の先っちょが海から顔を出している」ような印象です。
今回の映像について
東京の離島への旅が話題になる今日このごろ、はじめは「ドローンの旅」シリーズの一環として楽しいレポートにしようと島に乗り込みました。小さな島だとドローンも飛ばしやすそうなので。
ところがレンタカーを駆って海岸線に降り立った瞬間に、(前述の通り)噴火の爪痕が生々しく残るその異様な光景に圧倒されてしまいました。
「ここでドローンを飛ばすと凄い絵が撮れそうだ」 もちろんドローンを飛ばします。設定を4K/60Pに変更して。
「凄い絵が撮れる。そう、ドローンなら誰でもね」 タブレットに送られてくる映像を観ながら、自分にツッコミを入れます。
今まで撮ったことがないようなシーンを次々と収めながら幾つかのポイントを巡るうちに、今回はいつものレポート映像ではなく、ひとつの作品にしようと決めました。
「ひとたび怒り出すと手の付けようがないほど理不尽な地球の力と、そこにまた新たに芽生える生命の力強さ、そんな自然に翻弄されながらも続けられる人間の営みの儚さ」 みたいなものが、この投稿と合わせて少しでも伝えられるといいなと願いつつ。
島を出る船の中で、3台のカメラで撮影したデータを入れたフォルダをチェックしたら、一日半で撮ったデータの合計が60GB。 「さぁて、編集が大変だ」とぼんやり考えながらも、「この映像で一番キモになるのは音楽だな」ということだけは、はっきりしていました。
いつもなら手間とコストを抑えるために、BGMはCCライセンスが付与されたデータを使用することが多いのですが、今回はウィスパー・ヴォイスが魅力的なPetitotoさんに創ってもらうことにしました。三宅島でドローンを飛ばしている時から、頭の中で彼女の歌声が聴こえていたので迷わずに。
自分が撮った映像にオリジナルの音楽を創ってもらうことは久しぶりだったのですが、そのプロセスはやはり楽しく、知的な刺激をもらいました。今後もこういう機会を増やしたいですね。 PetitotoのSoundcloudのページはこちら。
撮影した機材はPhantom4 Proとα6500とGoPro Hero5+KARMA Gripに一脚。三脚はナシ。 Vimeoには4Kでアップしていますが、Hero5のところだけ2Kです。
旅の準備
まずはドローンの飛行制限に関して、観光協会と空港管理事務所、そして三宅島は(伊豆七島とともに)富士箱根伊豆国立公園に指定されているので東京都三宅支庁に問い合わせをしました。 (そのやり取りの内容に関しては、VIEWN店頭でのみ共有致します)
カメラは上記3台に加えてMavic Proもバッグに入れておきました。こういう時に心強いですよね、Mavicは。P4Pのバッテリーが3本だけだったんですが、やはり現地では心細かったです。昼過ぎに宿に戻って充電をすることに。(昼寝とともに)
航空ファンとしては調布飛行場から三宅島へと飛び立ちたかったんですが、これだけの機材を持って行くと追加料金がとても掛かるので船に。でも船だと朝の5時に三宅島に着く関係で、ほぼ丸一日フリーになるので結果的にはコレで良かったなと。復路が飛行機なら最高ですね。
宿はレンタカー付きのプランにしました。 月曜日の一泊なのに第一希望の宿は満室だったので、宿は早めに押さえたほうが良いのかも?
映像内のシーンの補足と旅の記録(軽め)

竹芝桟橋から乗船。

往路は特二等で。

割り当てられたスペースの広さ(狭さ)はこんな感じ。 リュックの中にP4P、トートバッグの中にα6500とGoProセット。Mavic Proと着替えと一脚はスーツケースに。

波の状態によって到着する港が変わるので、送迎がある宿は大変ですね。

レンタカーを海岸に停めたところで、見知らぬオジサンが「よぉ、俺のクルマに乗せて案内してやるよ」と声を掛けてくれました。「俺が昔、旅をした時に地元の人が案内してくれたんだけど、その人の案内があったお陰で良い旅になったからさ」。 これは僕もいつも感じています。現地の人のアテンドがあるのと無いのとでは、旅の充実度は大違い。
「だから三宅島に旅人が来ると、今度は俺がそうしてやろうと思ってるんだ」と。 島の歴史や避難時のこと、食べ物のことなど、WEBでは見つけられないようなお話を聞かせてもらいました。 この後にちょこちょこ出てくる現地のTipsは、実はこのおじさんの話の受け売りが多いんです。
00:26はメガネ岩。かつてはこの空洞が2つあったが、噴火の地震で片側が崩落した(00:28の海面のところ)。
00:34に出てくる火山岩で出来た筒状の構造物は、島で実際に使われていた灯台だそうです。01:32の灯台は伊豆岬にあるもの。

映像では00:45のところ。 小中学校に押し寄せた溶岩がそのままに。この光景はやはり異様です。

現在では『火山体験遊歩道』として、冷えた溶岩の上を歩けるようになっています。 そこで芽吹く新しい生命。
映像の01:17に出てくる動物はイタチです。ネズミの駆除の目的で島に導入されたそうで。はじめのうちはオスだけだったものが、知らぬ間にメスが混じっていて繁殖し、島の生態系を狂わせていると『アカコッコ館』のスタッフが教えてくれました。

三宅島の固有種の鳥「アカコッコ」の名を冠した『アカコッコ館(公式サイト)』。島の自然を知ってもらうための自然観察園です。施設には双眼鏡が常備されていて、裏庭に集まるメジロなどが観察できます。この日は残念ながらアカコッコには巡り会えず。

鳥の重さ。

火山灰で埋もれてしまった鳥居と社殿。

そこでドングリが芽生えているところを発見。踏まなくて良かった。

映像の01:39あたり。白く見えるのは火山ガスに毒されて死んでしまった樹々。その周りを新たに生命を得た樹々が取り囲む。 生と死が同居する荘厳な光景を前にして、ただ呆然と立ち尽くしてしまいました。

映像の02:12あたりから見える大きな窪地は、かつて島民に水を供給していた『神澪池』でした。それが1983年の噴火で一夜にして蒸発してしまった。 このスポットの展望台からは、ただの斜面と窪地にしか見えなかったんですが、ドローンを飛ばすことで「ここで何が起こったか」を理解することができました。

『神澪池』が消え失せた後は01:58で水面が見える『大路池』が島民の最大の水源となっています。周囲をぐるりと囲む遊歩道は、ところどころ大木が倒れていてなかなかスリリング。

大路池の近くにある『迷子椎』。

三宅島が古くから噴火を畏れ、それでも共存してきたことがわかります。

冒頭と最後に出てくるこの映像のハイライト。赤と黒と青のコントラストが鮮烈で、こんもりとした頂きにポッカリと空いた火口の痕跡に、自然の力への畏怖の念を抱かざるを得ない『ひょうたん山』(三宅島観光協会)。
でもここでドローンを飛ばすのは、じゅうぶんに注意をしてください。

ひょうたん山の目と鼻の先に三宅島空港の制限表面が迫っています。 ※三宅島空港管理事務所による制限表面の説明PDF。ドローンについての言及も。
この映像を撮影する際は、空港の時刻表(通常は一日に三便)とFlightRador24アプリで機影を確認し、安全運行管理者とともにタブレットに表示されるMAPで機体の位置が海岸線を離れないようにしつこくチェックしています。 フライトが制限されたエリアの近くでは、絶対に一人で飛ばさないように心がけましょう。
さて、午前と午後の観光&フライトもあっという間に終了。 宿に戻って・・・島の晩ごはんです!
フライトを終えて

宿での夕食は金目鯛の煮付け、焼き魚はタカベetc.と、新鮮な魚介類が次々に出てきましたよ。島のご飯はこうでなくちゃ。これにアシタバの天ぷらを追加。
たっぷり食べてぐっすり眠る。 翌日も朝からドローンを飛ばします。

翌日の出港前のランチ。この日は魚が取れなかったらしく、ラーメンと焼きそばがイチオシとのことでした。青海苔の雰囲気がちょっとちがう。
ランチを終えたら島を出る支度をします。

定刻通りに船に乗り込み、三宅島を後にします。 あっという間の一日半。
冒頭にも書きましたが、初めて三宅島を訪れた感想をひとことで言うと「東京のすぐ近くにこんな景色と環境があったのか」という衝撃です。(三宅島は東京都なんですけどね)
ゆっくりと溶岩が流れ出すキラウエア火山は、テレビで観ながらもなんとなく別の星の出来事のように感じていました。でも三宅島ではそれに似たような、いや人間が造った構造物を飲み込んでいく様は、それ以上に尋常ではない光景のようでした。 文字通り足がすくんでしまうほど。
今回はレンタカーで島を一周しながら、行き当たりばったりな感じで撮影をしたのですが、できればまた訪れてじっくりと撮影をしたいですね。 そう言えばクルマに乗せてくれたオジサンが、「20年ごとに噴火してるから、もうすぐ噴火するぞぉ」と笑いながら教えてくれました。
それまでに行かなくては。